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三匹目のオオカミは八岐大蛇に変化しちゃっていますが、・・・。 [オペレーション]

その二つ目の首と三つ目の首はいつ暴れだすのでしょうか。

一つ目の首はいまのところ静かになって入るものの余分なことが発生してきているようですね。

もう一つ以上あるでしょうな。

あるいはそのいずれかが絡み合ってとぐろを巻き始めるかもしれません。

医療機関、他の対応は [オペレーション]

 現地に近い個人病院あろうが、公立病院のスタッフが非常招集されて各自が三々五々集まり始めていた。小海病院はいわば野戦病院の様相である。門のところには地元の警察が立ち運ばれてくる救急車両の誘導に備える体制が整い始めていた。
 医師の水沢も今日は非番であるが電話で呼び出され、ついさっき病院に駆けつけてきた。「まったく、今日は家族で長野の親戚に行く計画がパーだ。」「一体、いつジャンボはおろされるのだ。」ベテラン看護婦の北村が「もう直のようです。」と答えただけで目はテレビの画面を見入っていた。
 「北村さんはしっかり落ち着いている様子だが、包帯とか、薬のほうは用意できているのかね」水沢も仕事人の顔になってきた。「ハイ、全て用意できています。先生のように非番ではありませんので、考えられるものは全て用意できているはずです。」「こういう事態になると女性のほうがどうしても度胸が据わっている様だなぁ。」と言うと「先生はあかちゃんを生むことは出来ないからねぇ。」「其れはそうだ。うみたくても生めないのだ。」「しっかり落ち着いてくださいね。」普段の状態から判断すると形勢が逆転しているようである。「なんでこんな話になってしまうのだ。」言い残したかと思うと、ごった返すであろうフロオアーや、診療室を見回していた。「緊急時でもなければ、私がこんなことをするはずじゃないのだけれど、」とぶつぶつ言いながら珍客の到来に対処しているといった所である。

 もちろん現地のテントには自衛隊の医務官や看護婦地元から応援の医師たちがスタンバイしていた。万が一にも火災が発生した時に備えて近隣の消防車、地区消防団の人たちも動員されている。仕事に行っていたものもいたため集まってくるのもさまざまである。やっとこ間に合ったものもいる。まだ駆けつけていないものもいる。という状態である。「緊急招集で何が起こったのかわからず来てみたら、大変なことになっていて驚くやら、何てことだらず。」「こんなポンプで飛行機の火災まで対応できるのかやぁ。」「燃料を捨ててあると言っているので火災が起きてもそんなに大したことにはならないだろう。」「なんともそうであって欲しいのだが、うまくいくのかなぁ。」「俺たちはもっぱら軽度のけが人などを運ぶのだろうなぁ。」「タンカとか用意するのかなぁ。」「取り付け道路といっても満足なものがないのでどうするのだろう。」「其れより、お前、団長から何か聞いているか。」誰もが経験したことのない出来事に対する不安を饒舌で埋めようとしているかのようである。「大型の消防車は大回りしなければ救出現場までは行かれない気がするのだけれど、」などと言い合っている。
 現場の混乱振りはこんな会話の中に端的に表されているといえる。「珍客もいいけれどもっと静かにやってきてもらいたいものだょなぁ。」「突然、時速何百キロで来られてはたまったものではない。」「こちらの状態に合わせてくれなければ困ってしまう。」「オイ、そんなこといったって、事故は突然起きるものじゃないのか。」「しっかり確保できたから良いものだが、近くの町にでも落ちたらこんな騒ぎはなくなってしまうじゃないか。」場所こそ違うものの同じような会話があちらこちらで交わされていることになる。


野辺山急造空港 [オペレーション]

 ちょうどその頃、すべての捕獲作戦が終了した地点が野辺山の宇宙観測アンテナが林立するところから一キロもいかないところであったのでジャンボの緊急滑走路は野辺山に決定されたのだ。これが軽井沢や小諸の上空だったら群馬県嬬恋村のキャベツ畑か草地になっていた。群馬県警に撤収の指令が下されるやいなや「指令、我々の一部の部隊を輸送用ヘリで野辺山の支援部隊に合流させたいのです。」「多分人手が足りない事態が想定されますので、指示があるまで待機します。」と進言してきた。

 学の脳裏にかつて自分の曽祖父山口多門が緊急事態の中でも次の打開策を進言してきた姿を思い起こしていた。南雲機動部隊の司令部がもみつぶしてしまった苦い忌まわしい出来事の一部始終が瞬時に脳裏を駆け巡っているのである。「爆弾装着のまま敵空母に攻撃をかけるのはどうだろうか。」という提案である。魚雷に装着しなおすには時間的な余裕がないのである。攻撃の効率は劣るかもしれないが、戦力であることには代わりがないはずである。もしも、この進言を直ちに実行に移されていたなら、かの海戦の結果が少し変わったものになっていたのでは無かったのだろうか。最終的にはその方向で空母が傾いているにもかかわらず発進していた若者たちの勇気に何度感激したものか。この決断をするまでの待ち時間は計り知れない結果をもたらしたのではないかと考えていた時期があった。
 心の中に彼らのミスを教訓に変えるのだという強い決意がわきあがってきた。群馬県警や自衛隊の部隊も歴史的な大事業に何らかの形で参加したいと考えているのだということが手に取るように理解できる。この進言を喜んで受け入れることにしたのである。「宜しくお願いします」「直ちに急行して現地の対策本部の指示に従ってください。」「その趣旨は伝えておきます有難うございます。」特に医療部隊の人数が少ないことは現地からの報告で解かっていた。「この際、背に腹は変えられない。」、ひとりでも多くの人手がいることは明白のこととなっていた。「ヘリでの移動は30分もあれば可能であろう。」「救出に多くの人的資源が必要であることは現地対策本部からも感謝されるはずだ。」は危機管理室の一致した意見になっていた。


つり作戦3 [オペレーション]

 危機管理室の中でも一様に安心感が漂い始めているが、学の頭はもう一つの作戦のことでいっぱいであった。間髪を入れずに作戦部隊から「指令、次の作戦に移ります。時間が無いので二機に同じ釣り針をつけてどちらかでジャンボを釣り上げます。」「指令には内緒にしておいて二つ用意しておきました。」スペアーという発想である。「費用はたいして違いが無いので断りなく独断で作らせました。」「事後報告で申し訳ありません。」清水も「俺は、そんな指示はしていないし、そんなことは一切聞いていない。」と驚いたように両手を広げて首を傾けて見せた。「これは釣りキチガイの誰かと水谷の仕業だな。」と学が苦笑していると、官房長官が「いいではないかそれぐらい。」「何人もの命が救えるならもうちょっとお金をかけてもかまわなかったのだ。」真にリラックスした雰囲気である。
「長官、次の作戦の方が大変です。しばらくお待ちを、・・・・・。」と言って危機管理室の緊張を再度鼓舞しなければならなかった。こちらの作戦のほうが問題であることは作戦部隊も、学も一致した考えである。だから二機のヘリには一番ベテランパイロットと釣りきちがいの隊員を数名就けてある。いわばつりのベテランというわけだ。趣味が、実益が作戦に応用されるのだから彼らにとっては一世一代の晴れ舞台である。
大体、一年のうち何回かは年休を使って釣りに出かけてしまうというのである。まして習志野から海は近いのだからそんなにしなくてもよさそうなものであるが、彼等の言葉を借りれば、「全ての条件が一致するのに日や時間,天候は待ってくれない。」ということらしい。「まさに今、目の前で起きていることと同じではないか。」とつぶやいた者がいる。誰がいったのか確認する暇などはない。学も、彼等の上司も「其処が趣味というものかなあ。」と感心しているくらいである。学も休日になると釣りをした経験はあるもののその成果はぱっとしたものは無い。
もちろん、小さかった頃、田舎の川で友達とつりをした時でさえ友達にはかなわなかったのだから大した腕前でないことは簡単に想像が付く、キチガイといわれる領域がどんなものかも皆目見当が付かないのだ。「この釣りはそんじょそこらの釣りとはわけが違うのだ。」人類史上最初となるジャンボを釣ろうというのだから、つれた時の感慨は釣り人にとっていかばかりなものとなるのかは想像が付かないのであるが、小躍りなんてものでないことは想像できる。「ジャンボを魚拓に取るなんて言い出しかねないぞ。」そんな思いが駆け巡ってくるのだ。しかし一度かれらと釣り糸をたらしてみたいのだがいまだ実現してはいない。一番機が最初に釣り糸をたらしてジャンボを釣ろうとしている。
この頃になると乗客やクルーにも一種の安堵感がみなぎり始めていた。明子もサービスのコーヒーを飲み干すと機外で繰り広げられている作戦を眺めていた。もちろん、この作戦が見事に成功して雅夫に会いたい。会ったときジャンボの釣り作戦の話をするのだと考え始めている。

 一番機の試みはなかなか上手くいかないようである。ジャンボの機体の上では金属同士がぶつかって大きな音を立てていた。機内の子供たちが、「お母さん大きな音がしているけれど大丈夫なの。」「何かぶつかっているの。」としきりに聞いている。「それにしても大きな音になるものだなぁ。」という同乗者に、「そりゃそうだ、時速何百キロでぶつかるのだから相当強い衝撃になってもおかしくない。」「重量にも寄るが何トンというレベルで当たっているはずだ。」「良く機体に穴が開かないものだなぁ。」「さっきの説明では機体の後部から逆コの字の方向に滑らせて吊り上げるといっていたが、・・。」「金魚すくいのように簡単ではないさ。」解説者のように物分りのよい人もいる。
大変な状況の中で幾分かはリラックスしてきたということだろうか。つり落としてしまいかねない状況に作戦部隊の水谷の檄が飛んだ。「もうちょっと右側だ。」「もっと高度を上げろ。慎重に、」「行きすぎだ。」「ジャンボの機体の後方に釣具を落として前方に引きずってくれば自然に引っかかるではないか。」「そのために釣具の底部をなだらかな曲線にしているではないか。よく考えてみろ。」たいした釣りをしない水谷が釣りきちがい達を叱りつけているという雰囲気である。つりキチガイに新しい師匠が出来たような感じである。
水谷もヘリに乗っているが直接作業に携わっているわけではない。もう一機用意した指令ヘリに乗り込み双眼鏡を片手に持ちながら作業の段取りと各機の調整と現場における直接の指揮をしているのである。「二番機オペレーション開始。」一番機が去った後、すぐに釣り作戦が取れるように、一番機の作戦の邪魔にならない位置にスタンバイしていたのである。ちょうど釣り人が釣れてもいないのに、さおを引き上げて餌の確認や良いポイントに投げ入れる様な仕草に似た行動としているではないか。「そのために釣具がふたついるといいだしたのか。」と学も感心していた。これもまた学の指示ではないのだ。「水谷もやるなあ。」とこぼしていると、「彼の発案ではないかもしれない。」と言い出すものがいた。しかし、いくらつりキチガイの提案であったとしてもよいものは即座に取り入れるだけの器量は備えていることになる。隊員たちのモチベーションを高める一つの方法ではある。
「これだから指令に指名されるわけだ。」危機管理室の一同も感心していた。「指令、この分だと釣りが出来ますなあ。」官房長官もそんなことを言い始めた。学の三倍近く年を取っているのだが、ここでの自分の立場はあくまでも報道関係に対する広報の役に徹しきっている。しかしここぞという時の決断だけは速いので誰もが一目置いている証拠である。「これだから首相に信頼が厚いのだ、なるほど・・・・・。」 
 そんな感慨に慕っている頃、「指令、二番機がジャンボを吊り上げました。」「よし、次のオペレーションに取り掛かってくれ。」学の声が危機管理室に響き渡った。作戦部隊にも幾分余裕が出てきたのだろうか。「ジャンボの魚拓を取ろうか。」「紙が相当いることになるぞ。」「一世一代の釣りをしたのだからなぁ。」「それも空中で・・・・。」「今度、あのフライングフッシュとか言う釣り方に挑戦してみようかなぁ。」と言い出すものもいる。「そんじょそこいらの釣りではないからなぁ。」「日本中をこのニュースが駆け巡るのだろうか。」「ということは俺たち一躍ヒーローってことか。」「釣りしか脳のない俺たちでも世間の役に立ったのだなぁ。」という声が聞こえてきた。「普段仲間たちに迷惑ばかりかけてきたんだけれど、これで恩返しが出来た。」「ひょっとするとおつりがくるかもしれないぞ。」と感激しているものもいる。

つり作戦開始2 [オペレーション]

 この頃になると携帯を通じての連絡が603便と作戦部隊との間でも可能になっていたのでスクランブルを担当したファルコンの中継はいらなくなっていた。学は「ご苦労さん」と答えてはいるものの、次の作戦で頭がいっぱいになっていた。かれらがいなければ603便の確かな情報をえることはできなかった。先の大戦で利根の偵察機が故障して出発が遅れてしまったことを思い出しながら、いくら感謝しても仕切れるものでないことは十分理解している。
そのために彼らには発見可能な180度の方向に適当に角度をつけて扇形にスクランブルを掛けていただいたのである。まだ作戦の真只中である。かれらの期待を一身に背負っていることは危機管理室の誰もが同じ考えである。「作戦が終わったら私一人でも座間基地に出向いて感謝の言葉をかけてこよう。」呟きにも似た叫びを胸に秘めていた。「指令、ジャンボが二基のエンジンをストップします。それに続いて二基のエンジンを絞ります。」その作業が全て終わったから4分後、エンジンを切った所から合算して7分後に救出部隊と遭遇してモッコ作戦が始まるのだ。
「指令、エンジン停止からカウントダウンを現場で始めます。」カウントダウンが始まった。「うまくいってくれ。」祈りにも似た言葉が学の口をついて出た。「この時間のなんと長いことか。」学は独り言のようにつぶやいた。カウントダウンの声だけが聞き管理室に響き渡っている。

 誰もが緊張の瞬間を感じ取らざるを得ない状況である。喉が渇くのか手元にあったコーヒーの魔法瓶は殆どからにている。もちろんその全部を学が飲んだのではないのだが、「一体何倍飲むのかしら、」早乙女は「やっぱり指令でも緊張するのだ。」と思いながら新しいのと取り替えていった。「やはり自分と同じ人間なのだ。」と思いひとりニヤニヤしながらも、尊敬の念がふっふっとわいてくるのは疑いの無い事実である。
 同僚の女性職員も「よくもまあ、こんな大それた作戦を一体あの人の頭の中はどうなっているのか。」「ねえ、指令はあんな大それた作戦を良く思いつくものだ。」とか「一体頭のどこにいろいろな情報をストックしているのかしら。」「必要な情報がどこにあり誰が持っているのか、どうすれば問題の解決になるのか的確に判断できるのはおどろきょねぇ。」「其れってもしかするとクリエイテブ・センスとか言うことじゃないかしら。」初めて学と一緒に仕事をしたとき自分が感じたことを、企画力のすばらしいところをこの後輩たちも感じ取っているようである。
しばらくお化粧を直すふりをして取りとめの無いことを考えている自分の顔をコンパクトの鏡に映してみるのだった。危機管理室のオペレーションルームではカウントダウンの声が限りなく小さな数字を刻み始めていた。
10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0、「指令、ジャンボを捕まえました。」殆ど同時か、それ程たたないころ、作戦部隊の水谷の声が弾んでいた。しばらくの静寂の後、「速度が一致したのかそれほどの衝撃は感じませんでした。6機の大型ヘリの一致した考えです。」「機長が何とか機体を水平に保つ努力と大きな風が吹かなかったので助かりました。」そんな報告が届き始めていた。「よし、603便エンジン停止、その後、注意しながら燃料投棄にかかってください。」「水谷、経過をつぶさに報告してくれ。なるべく、時間がかからないほうがベターだが、引火だけは何が何でも避けてくれ。」「邪魔にならなければ消防ヘリ二機で消火剤を投棄燃料にかけることも考慮してみろ。」
このことはかなり前から学と水谷の間で手順は確認できていた。水谷もそのように実行していることを予備のヘリコプターが伝えてくるモニター映像で確認できた。事実、作戦部隊の邪魔にならないところからエンジンの噴出口と燃料を供給しているパイプの付近に消火剤を集中的に散布しているではないか。
作戦部隊もなるべくエンジン部分と翼に重量がかからないように極力水平に近い状態でジャンボを支えているではないか。それでも幾分は翼が上方に委曲してしまっている。ここまではおおよそ予測できる範囲での誤差の中に見事に収められているという感じがしている。「水谷ありがとう。その方法までは頭が回らなかった。」違うところに関心が行ってしまっていたと思われる。
しばらくすると603便から「燃料投棄、完了。」という報告が飛び込んできた。「少々の高度低下はされられないが、水田、チェックと報告だけを確りしてくれ。その間にもう一機で本当のつり作戦を展開する。」

地元の対応、長野県野辺山及び群馬県長野原では [オペレーション]

内閣危機管理室から両県警に要請通知が届いたのは学ぶが首相官邸に届いてまもなくのことであり、両県の本部には危機管理室の情報は筒抜けにしてあるのでどういう対応を取ればよいのか大まかなところはいちいち打診しなくても行動が起せる。長野も群馬のほうも603便の下ろせる場所はすでに決めてあるようで長野は野辺山高原一体レタス栽培の畠の場合もありうる。群馬は長野原の草原かもしくはキャベツ畑で、地元消防団をはじめ、救急車、消防車が動員され始めている。

近くで農作業している人は「一体なんだ、何か合ったのか」と聞いてくる。「何でもジャンボが操縦不能で救出作戦が展開されるらしい」そんな会話が両県の高原の村と町に広まった。「何でも以前大阪でしりもち事故を起した飛行機が乗客を乗せたまま、グライダー状態で飛んでいる、グライダーなら操縦が出来るのだがどうも糸の切れた凧の状態に近いらしい。」「文明の最先端の飛行機が鉄の塊の状態で右往左往しているらしい」「どうにかしてそれをここにおろす作戦らしい」「そうは言うもののお前さん飛行機は時速何百キロのスピードが出ているのにどうやっておろすのだ。」「ヘリコプターじゃあるまいし、おろすといったって操縦できないではないか。」「第一滑走路なんかないではないか。」事欠かない話題が山村の小さな町を駆け抜ける。

知事の要請を受けて自衛隊の先遣部隊がヘリで到着してテントを張り、急患の人を応急手当する医療チームは完璧ではないものの準備を始めている。村や町の役場はもっと大変である。「村長、一体。炊き出しの準備は要るのかね。」「何処の地区にお願いするベー。」「婦人会しかないだろう。」助役が言えば、「警察はなんか言ってきているのか。」「墜落した時は大変なことになるなあ。」「在任期間が後半年だというのに大きなことが起きてしまった。」と村長はこぼしてみせた。「病院へ搬送のルートは国道や県道を止めるのかね。」突然の珍客の訪問に右往左往するばかりで何から手をつければよいのか、皆目見当が付かないでいる状態であった。
それも3000メートルの上空から突然やってくるというのだから、町でも村でも前代未聞の出来事である。「絶対に歓迎できないお客なのだが、危機的な状況じゃ手助けしないわけにも行かないだろう。」腹を決めるとかいう問題ではない。いやがうえにも対処しなければならないのである。地区婦人会も緊急招集がかけられ公民館に集まってきた。「たいしたことになったもんだなぇ。」「おら、午前中ちょっと出かけていて帰ってみたらこの騒ぎでな。」「長く生きていりゃいろんなことに出くわすが、今度ばかりは・・・・・。」と言い出すものもいる。
一体、何人分の炊き出しを用意すればよいのやら、皆目見当が付かず用意された材料をただ料理するだけである。もちろん、この公民館だけではない。あちらこちらの公民館でこのような会話と、炊き出しが行われているのだから何百人の規模になることは確かであった。幸なことに長野県はこの種類の施設が日本中で一番ととのえられているらしい。


学の仕事の仕方 [オペレーション]

 命令を出さなくても危機管理室、作戦部隊、ジャンボ、支援部隊の間は筒抜けになっている。「高橋、聞こえたか、ジャンボのエンジンを止めれば相対速度は一致するのか。」「多分、一致すると思いますが、直ちに計算してみます。」しばらくして「指令、ジャンボのエンジンを二基止めて他のエンジンの出力を絞れば3分から4分後に相対速度が一致します。」「相対速度が一致するといったってお互いの速度が限りなくゼロになるということであるが、外から見ると時速何百キロで飛んでいることに変わりがない。」「くどいようですが、この点をしっかり頭に叩き込んで置いてください。」「その間は、殆どグライダー状態であります。」「グライダーは操縦できますが、ジャンボは無理です。」「特に大きな風が起こらない限り大丈夫です。」と言う報告がもたらされた。「水谷聞こえたか。各機の間で確認しておいてくれ。」学の大きな声が危機管理室に響き渡っていた。「指令、わかりました。」と水谷と機長から殆ど同時に帰ってきた。

 そういえば先の大戦のミッドウェー海戦において最後まであきらめず、いろいろな試みを試した山口多門のことを何かの本で読んだ記憶をたどっていた。かれが作戦の途中で南雲機動部隊長や航空司令官に進言したことを即座に実行していれば、結果が少し違ったものになったと思う、実際その方向で突き進めることにはなったのだが、空母が傾きかけた中で発進して行った先人たちの勇気に身震いする思いであった。もともとあの作戦も作戦上のミスと偵察機の故障によるミスと無線封止が招いたものである。
 こんどのことも、この機が以前しりもち事故を起した後、修理はされているというものの、何回かの飛行で他の機よりも丁寧な検査が必要だったのだがマニアル通りに検査されただけだろう。本当にそうなら、人為的なミスといえばミスである。そのくらいの配慮があってもよかったはずだけれど、・・・・・。

 機長は自分の姿を山口多門や、若い戦闘機の操縦士にダブらせていた。総員退去の中で帽子とメモ(駆逐艦艦長にあてたもので、それには「飛龍を魚雷で撃て」と記されていた。)を託し飛龍と供に散って行ったその勇姿である。もちろんゼロ戦に比べれば何十倍も大きな文明の最先端機を操縦しているのだが、・・・・。
半世紀も前、良いか悪いか別の問題として、若者たちが必死で守ろうとしたこの国の行く先を思い起こしてみるのである。特攻大和に乗り込んで行った人たちが、この国の行く先を憂い過ちに気が付いてもらいたいと書き記していった教訓「この国は教義ばかりが先行して進歩という事を置き去りにしてきてしまった。今気が付かずしてして何時気付くのだ。自分達はそのメッセージを伝える義務がある。そのために命をはってことにあたるのだという、命に変えて訴え続けたさきがけの精神」が頭の中を駆け巡ったのである。

 自分たちも何とかして乗客乗員の生命の安全を守らなければならないのだという使命感が頭をもたげてきた。「よし、何とかしてこの人たちを助けるのだ。学のオペレーションにかけてみよう。」と言う使命感がふつふつと沸いてくるのである。
同様の緊張は作戦部隊のヘリにも同じことが言える。作戦本部の学は「高橋、風向と風力、風速などの情報が集めて603便の進路予測や、速度を作戦部隊並びにジャンボに伝え初めてくれ。」「ジャンボの速さに高速展開ヘリの速度を合わせるのだ。」「操縦できないジャンボでもそれくらいの修正はできるはずだ。」ファルコンの伝えてくる情報を解析して一番良い方法を作戦部隊他に伝える体制が整いつつある。

 この間、学は相対速度研究所の高橋と作戦部隊やジャンボの間のやり取りをチェックするだけで済まそうと判断していた。特に問題がありそうなときだけ口出しをすればよいと考えていたのである。スタンバイの体制が時々刻々と迫ってきているのである。

危機管理室の空気もいっそう緊張してきた。何かおもぐるしさもあるかのようである。「早乙女、熱いコーヒーを」とだけ告げて腕を組んでいる学の姿がいっそう頼もしく感じ始めていた。早乙女はふとわれに帰りニコニコしながらコーヒーを運んできた。「こういう緊張した時、早乙女の笑顔には癒されるなあ。」学をはじめ危機管理室のスタッフの一致した意見であるが、学の口から出るとは予想しなかっただけにまんざら悪生きはしないのだ。「この人に、ファンセがいなければ私はたとえ押しかけ女房と言われようと一緒になるのだが、もうちょっと早く学さんに出会っていれば」などと考えている自分にこんな状態のときになんと不謹慎なことを考えているのだと反省しながらも、隠せない心のうちを制服に包みてきぱき作業をしているのである。

伝えられてきたオペレーションの内容 [オペレーション]

 実際それが伝えられてきたのは作戦部隊が韮崎上空にスタンバイする少し前のことである。まず機長にファルコンから内閣危機管理室指令学の考えが伝えられた。
 機長でさえ「そんなことできるのか。」半信半疑の声が上がるのだから大変な作戦であることはコックピットの一応の答えである。しかし、「このほかにどんな選択があるというのだ。」自問自答してみればどこかの平原に着陸しようとしても操縦できる代物でないことはすでにわかっていることである。悪いことを考えればどこかの都市に墜落して乗客以外の犠牲者を出すことも頭をよぎった。「一体、この速度に追いつくヘリコプターなんてあるのか。」「しかも一機や二機ではないのだぞ」自分の後輩の頭の中にどんなシナリオが書かれているのか皆目見当が付かずにいるのだ。しかも、「動いているもの同士がそれを捕捉する為には大変な危険が伴う。」「一つ間違えば作戦部隊の人命を奪いかねない作戦であることに代わりが無い。」それらの考えが頭の中を駆け巡っている頃ファルコンを通じて作戦の仔細な作業工程(オペレーションの手順)が伝えられてきた。最初は大型高速展開ヘリ6機によるモッコ作戦である。
 次に予備機によるまさに魚釣りの作戦である。機長のやり取りを聞いていたコックピットの中に戦慄が走った。この文明の大傑作を一世紀以上も前のしかも田舎の工事現場で取られていた、人力工法が救うというのだから当事者でなければ笑い話なってしまいかねないそんな作戦である。どう考えてみても最良の方法だと思った。「どこかに墜落してその場所が山の中だとしても乗客の命は救えない。」「まして発火しやすい航空燃料をいっぱい積んでいるではないか。」コックピットの考えも固まってきた。「やるしかない。」「それにしてもあいつは良くこんな大それた作戦を思いつくものだ。」自問しながらも何かたくましさを感じているのである。
 もちろん、無線が使えるわけではないのでスクランブルのファルコンから携帯電話で中継されたものである。「作戦機は山梨県韮崎上空で待機している。」「飛行機の操縦が不可能のために風向風力等の気象条件から飛行機の進行を割り出して通過地点にモッコ様の網を仕掛ける。」まさに定置網を用意して魚を待ってすくいあげようとしてとしていることに良く似ているなあと思った。「それに作戦ヘリの速度と603便の相対速度を限りなくゼロにしなければなりません。」「網にかかる力の配分が肝心です。」「機長はこの時なるべく機体が水平になるような方策を考えておいてください。」というものであった。
 しかし、なんといわれようと操縦ができないのである。幾分かの機体の修正は効くくらいのことでわずかに揺れの防止が出来ているだけであることに代わりがない。相対速度を一緒にすることによってお互いのショックを減らすという意味であることは誰でも理解できた。危機管理室にいる早乙女でさえ速度と力学ぐらいは理解できるとは言うもののこの人たちの頭の中を覗いてみたいものだと常々考えていたことが現実味を持ってきていることにただただ驚いた。「その後、603便エンジンを停止して残りの燃料を捨てる。その間出来れば12分で完了することが望ましいが、引火しやすいので少々の時間的なずれは致し方ない。(救い上げた時点で翼の損傷を極力抑えることが最大のテーマになる。)6機の高速展開ヘリがジャンボの機体を維持する。少々の高度低下はされられない。その間に機体上部の修理などの時機体をつる片仮名の逆コ字型の鍵に魚釣り宜しく引っ掛けてもう一機が取り付き603便の総重量とモッコの重量をヘリ7機で支える。」というのだ。「このオペレーションが完了した暁に広い場所、現在交渉中に下ろし、避難させる。」というものである。

 603便にあたえられたチャンスは韮崎上空から群馬県長野原上空の38分間の時間しかないのである。「全てが旨くいくと見積もっても許される失敗は各々二回までである。」「其れを超えたらジャンボそのものが失速してしまいかねないのだ。」という学の考えが徹底された。緊張感がコックピットに走った。

 「婦人子どもで具合の悪い人から優先的に救出する。」と伝えられてきた機長はパーサーを呼び作戦の趣旨を話し「乗客に周知させてくれ。」と指示して操縦管をしっかりと握り締めていた。そうかといって操作できない飛行機をどうしろと言うのではない。ただゆれを修正する為だけに先ほどから一生懸命操縦しているといえるのか。
「わらっちうなぁ。」と言って操縦管を叩いてみせた。「少しばかり余裕が出てきたということか。」機関士は小さくつぶやくと自分が関わらなければならないエンジン停止の瞬間にいっそう力を入れなければならないことを思い出して緊張が高まってくるのを覚えた。「何しろ、秒単位の違いが作戦部隊と乗客の命を握っているのだからなぁ。」「けしてミスは許されないなぁ。」「これからの主役は機関士ということだなぁ。」と副操縦士が言えば「一躍スターダムに登りつめるということだ。」機長がそう切り返すコックピットに聞こえるように、自分たちを鼓舞するかのように言った。

  客室では、チーフパーサーから内閣危機管理室のジャンボ機救出作戦の概要が説明されると乗客は一様に「そんなことできるのか。」という疑問の声が上がった。「時速何百キロで飛んでいるものをいくら速度が同じになるといってもヘリコプターで掬い上げることはムリに決まっている。」という空気が支配的である。パーサーは続けて「このままでは、どこかに墜落するのを待つだけであり、何も試みないで後悔よりも何かを試みての後悔のほうを選択すべきではないか。」という提案がされた。「其れはそうだが。」「其れより良い方法はどう見てもなさそうである。」「金魚すくいの様には行かないと思うよ。」と言ってみるもののそれに変わる良い方法はない。一度絶望のふちに立たされたのだからこの際、挑戦してみようという雰囲気になってきた。
 中には「一体この大それた作戦を展開しようとしている若者はどういう人なのだ。」「助かったら一度あってみたいものだ。」などというやり取りをして居る古老の人もいた。その頃から603便は学の提案でコックピットのすぐ後ろにフロアーマネージャーが乗客やクルーたちの携帯電話を集めて機内の様子を報告してくるようになっていた.そのやり取りを危機管理室はもとよりスクランブルのファルコンや、作戦部隊には無線で中継されて聞き取れるようになっていた。中には手を合わせしきりに拝んでいる老婦人の状態まで伝えてきている。603便から大型高速展開ヘリがレーダーで確認できていること、これだけはどんなことがあっても動くように設定されているのだろう。そうでなければ、時代の最先端を自認するジャンボも盲人同様になってしまう。コックピットの内部で必死に操縦している機長や、機関士の様子まで克明に報告されてきている。603便と大型ヘリの飛行速度を合わせる努力が必死になって勧められていた。

 何しろヘリの最大の速度をしてジャンボの浮いている最低の速度との間に少々のずれが生じていることは容易に理解できる。「高橋なんとかならないのか。」学の檄が飛んだ。「しばらくまってください。必ず見つけ出します。」といったものの、先ほどからスタッフの力を借りて必死に計算しているが、良い結論が見出せずにいる。「なんとしても合わせるのだ。」学の声が管理室の中に響き渡っているそのとき、携帯のむこうから機長と機関士の提案がもたらされた。「指令、ジャンボの速度をもう三ノット落とすことが可能です。しかし、その間たぶん15分か20分の間だけです。その後はエンジンの出力を回復しないと失速してしまいます。」「その間に最初のオペレーシンが完了していることが絶対条件となります。」というのだ。「よし、それにかけよう。」学はそうつぶやいた。


学の苦悩2 [オペレーション]

 危機管理室の地下の別室に学と防衛庁長官、三軍司令官の源田の間で極秘に協議された作戦である。これが実行されるときはこの作戦が最悪の事態である場合が想定されるのである。【学が悲痛な決断をしなければ成らなくなった時のシナリオである。】  作戦部隊がジャンボを吊り上げることが出来ず、しかも、操縦の効かない飛行機が北に向かってしまった為に、どこかの都市に墜落する事態に備えなければならないのだ。
 学の気持ちの中にジャンボは陸地からそう遠くない海上で救出できるのではないかという期待があったのだが、ジャンボは操縦できないので、風の方向によってどこへ行ってしまうのかわからないためである。まさに糸の切れてしまった凧か、迷える現代の箱舟といった感じである。しかも多くの乗客乗員と航空燃料を搭載したままだ。
例えこそ悪いが、まさに爆弾を乗せて飛び立った特攻隊か、自爆テロと同じことである。その場合でも、彼らの目的はターゲットがハッキリしている上に操縦が出来る。最悪のシナリオを想定してそこから状況の変化した分引き算をしながら問題を解決していくしか選択肢が残されていないといえるのだ。引き算した残りが貸借ゼロ以上になる方法を模索し続けなければ成らないのである。
 「どこかの山に突き当たって墜落する場合はそのようにするしかないだろう。不可抗力という方便が成り立つ、この時は、ミサイルを使わなくても済むことになる。私としてはそのほうがありがたいのですが・・・・。」けして口にしてはいけないと考えていたのだが、秘密会議でもあり信頼していただける人たちだと判断して自分の心の奥まで露呈させて見せた。

 防衛庁長官、三軍司令官源田と協議された内容は【もう一機のファルコンにミサイルを搭載して打ち落とさなければならない事態になる可能性についてである。】学は「長官、司令官、この想定の対処をお願いします。」と切り出すと「そこまで、想定して準備しておかなければならないのか。」長官も頭を抱えてしまった。
「ジャンボを高度3500メートルから4000メートルの間で、ミサイルで破壊しても残骸が都市部に落下した場合は、其れ相応の被害があると想定できます。」「あくまでも極秘扱いでお願いします.」「よし、三人の間と基地指令、ファルコンの操縦士の間の機密にして、最後は首相の決裁を仰ぐことにしよう。」「源田司令官、基地司令に作戦立案と準備をお願いします。」「総理の耳には防衛庁長官のほうからタイミングの良い時に打診して置いてください。」つづけて「其れに、航空会社の社長に連絡もして置いてください。其れも極秘事項で」「ただ、高橋には想定コースの計算をさせなければならないので私のほうから秘密扱いでもらさなければならなくなると思いますが、そうする場合があるということだけ確認して置いていただきたい。」「そのような事態にならないように最善の努力をします。」「大丈夫だと思います、作戦部隊の水谷なら何とかしますよ。」といっては見るものの悲痛な顔になった。
 長官も、司令官も「最善を尽くして事に当たってくれ。」というしか方法がないのである。それにしても、こんな重大な決断をこの若者に迫っているのかと思うとお互い「何とかできないものかねえ。」と言い合うしかなかった。この会議の間、この会話は外にもれなくする為に、ヘッドフォンをつけているものの、受け取るべき情報は聞こえるが、学や三人の会話は拾わないようにスイッチが切られていた。緊急事態になれば秘密会議を一時止めてここから指示が出せることになる。

 学も先ほどの顔つきは危機管理室のオペレーションルームでは到底見せられるものではないと考えていた。隠し通せるものだろうか自信がなくなってくるのである。学もこんなときこそ早乙女の濃い目のコーヒーがほしいと感じているが、何せ極秘会議であり、なるべく時間が短いことに越したことはないのである。
 彼女が居合わせたとしても秘密を外部に漏らすことはないことぐらいは知っていたが、「自分の弱点を見せられないなぁ。」という思いがそうさせたのである。それでも感の良い早乙女に見抜かれるのではないかと心配になってきた。大体こちらの会話を通じなく設定することだけでも何かを察知するくらいのセンスは持っている。「女にして置くのはもったいないなあ。」と感じる時が過去にも何回か合った。それでも、秘書として最大限の力を発揮していることは喜ばしい事である。これは「オペレーションルームに戻る前に洗面所によって顔を洗って気持ちの切り替えをしなければ成らないなぁ。」「よし、顔を洗って出直そう。」自分のモチベーションを再度ふるい立たさなければならなくなった。

高橋スタンバイ2 [オペレーション]

後は、わずかのデーター(暫時報告されて来る風向と風力である。)を入力してジャンボの通りそうなコースを割り出すだけでよい。一息に仕事をしていたのでポケットからタバコを取り出すと美味しそうに吸った。「一段落したのかな。」岬もそれとはなしに感じていると、周りのスタッフに「誰か手が離せないのでコーヒーを入れてくれ。砂糖少し多目で、ミルク無し、シナモンがあればありがたいのだが、ストレスを軽減してくれる。こんな緊張する仕事は今まで経験したことがない。」ため息交じりの独り言ではあるけれど、・・・。これが上手く行かなければ今度の課題は解決し得ないものであることは皆が理解している。「なければそっちの私の机の引き出しの中にある。」と頼んだ。彼はいつでも使えるように机の引き出しに用意してあったのである。本当は難しい計算をしていたので脳内の糖分の不足をコーヒーの糖分で補いたいと考えていたのである。本当のところは手が離せないのではなく頭脳を集中しなければならないという事である。また、糖分、カフェインやシナモンの力を借りてどうしてもつりあわない相対速度を一致させなければならないのである。なぜだか彼はストレスのかかる仕事のときだけこのシナモン入りのコーヒーを飲んでいるようだ。時にはパンに降りかけて食べるときもある。シナモンシュガーの原理にはなる。「これがつりあわないと大変なことになる。」相対速度研究所のスタップでもそのくらいは理解できるが、おいそれと結論の出せる課題ではない。「うーん、何かよい方法はないものか。」「高速展開ヘリの速度がもう3ノットぐらいあればなぁ。」ここでもまた自分の考えを言葉にして仕事をして居る。「人間は大変な状況になれば追認しながら仕事をするものなのだろうか。」同室のスタッフがささやくように言った。

 今日は時間になっても、定時になっても帰れる状況にはならないことぐらいは誰でも簡単に想像がつく。「おい、今日は定時に帰れるものと思わないでくれ。」「場合によっては夜になる。」「帰れないということも起こる可能性があるので誰か、近くのビジネスホテルを予約しておいてくれ。」「交替で休まなければならない事態も想定しておけ。」と担当課長が言うまでもなく、これから高橋のバックアップをしなければならないことぐらいは皆が気付いている。岬は「シナモンの量は分かりませんので自分で入れてください。」といいながら幾分濃い目のコーヒーにシナモンパウダー入りの容器を添えて渡した。「ありがとう」というもののパソコンや書類とにらめっこをしている状態である。
岬は高橋のパソコンやプリンアウトした書類を覗き込んで「難しい計算で何がなんだかさっぱりわからないわ。」「私なんか数字を見ただけで頭が痛くなってくるのに、公式なんか並んでいるけれどどれがどうなればふたつの飛行機がショックも受けなくて済むのかしら。」「理論と実際とはおおよそかけ離れたものだと思うが、どうなっているのかしら」とおどけて見せた。彼女なりのその場の緊張を和らげようとする振舞いだろう。
実際、彼はいつもこんな計算をしているのである。最新のロケットなどを迎撃する為のシステムの研究が今一番の課題となっているのだ。よくニュースに取り上げられている米国と共同開発云々ということをもっぱら専門としているのである。其れもICBM級の迎撃ミサイルの精度と効率を要求されているのである。いわゆる敵のミサイルを大気圏外で迎撃破壊するシステムの開発に携わっているのである。

 「おい下崎ジャンボは横幅どの位あるのだ。翼の長さは」高橋の声が飛ぶ「それと、胴回りは何メーター」「そんなもの吊るすモッコのようなもの一体何処にあるというのだ。学の奴、突拍子もないことを思いつくものだ。曽祖父によく似ているわ。」このことは学には筒抜けになっていることを知っているだろうかと一同心配になってきた。「誰かジャンボの設計図を広い机の上に広げておいてくれ。」「其れに、設計図の読めるものはそこに張り付いていてくれ、私が質問したことは直ぐ答えられるようにしておいてほしい。」「何ノットで失速するのだ。」「ヘリとの速度が合わない。どうすればよいのだ。」「風速は、風向は、風力は、加速度はスクランブルのファルコンから何か言ってきているか。」「いずれのほうからも(ジャンボの近くでその作業をしているファルコン、並びに学が先回りして情報収集をお願いしている其れ)ファックスが届いています。」といってスタッフが届けると「指令もやるものだなぁ。」「先回りしてジャンボの行きそうな方向をすべて調査済みにしてあるということか。」「オペレーションとはそういうものであることは理解しているが、・・・・。」と感想をつぶやいている。「ここまでしなければならないのか。」とでも付け加えたかったのかもしれない。「そうか思い出した。桶狭間の戦いは奇襲ということになっているけれど、織田軍は地元の民に扮して貢物をしながら敵の情報をしっかり掌握していたことになる。数の上では奇襲ということだけれど、・・・・。奇襲ということではなくなる可能性がある。」トッゼンの独り言に苦笑している女性スタッフがいる。

 彼の普段している仕事に比べればファジーの部分を多く含んでいることを感じ取っているものと思われる。「これで計算がしやすい。」「段取りは完璧だが、どうすれば相対速度を合わせることが出来るのだ。」頭を抱え込んで考え込んでいるではないか。高橋とスタッフのやり取りは危機管理室でも全て聞こえるようになっている。学は「高橋も苦戦しているなぁ。」と感じながらも、「彼ならどうにかしてくれるだろう。」「きっと良い方法を見つけ出してくれるはずだ。」と期待していた。スクランブルのファルコンからの仔細なデーターは相対速度研究所にも時々刻々と伝えられてきている。

 この段階で幕僚長も「重戦車を吊るして運ぶ網がある、あれを十個繋げばジャンボの横幅を十分カバーできるはずだが・・・。素材が新規成分で出来ていた軽い上に丈夫に出きているらしいなんといったか思い出せない。」と言い出した。「其れだ。」清水が間髪を入れずに即答して見せた。幕僚長は続けて「確か習志野の空挺部隊にあるはずだが、アア思い出した、昨年、カーボンナノチューブを使った軽量タイプのものを調達してあるはずだがなぁ。」と言い出したと思いきや、清水は直ぐにパソコンの画面を覗き込んでいるではないか。【備品リストを確認していると思える。】「あれなら相当長くしても軽いはずだ。」「何でも、重戦車一台を吊り上げてもお釣りが来るくらい丈夫だ」独り言をいっているが、誰にでも聞き取れるほどの声である。「現代科学はそこまで進んでいるということか。」自分を納得させるように、しかも確認するという行為をいちいち言葉にしなければ次に進めない姿も危機管理室になじんで来ていた。
彼は自衛隊三軍の装備品の全ての情報をパソコンの中に記憶させていたのだ。緊急の時は何をどのように組み合わせれば問題の解決になるのかということは、アポロの救出劇の中でイヤというほど自覚させられている。彼もまた、学と同様にこの事故から学ぶことがあったのだ。特にアポロの船内の空気の汚れた時にNASAのスタッフたちが全員の知恵を集めて課題を解決した場面を思い起こしていたのである。ブレーンストーミングの成果だと考えている。

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